※この記事はネタバレを多分に含みます
はじめに
入間先生の新作を読んだので感じたことを書いておく。
ブログを立ち上げた主目的は、実はこのような百合作品の感想をストックしておくためだったりする。
書影を載せたかったが著作権的に微妙そうだったので見送った。(良い表紙だと思う)
感想
作品全体の雰囲気
前作の『私の初恋相手がキスしてた』はそこかしこにどことなく仄暗い感じがあった。
おそらく、星高空も水池海も、序盤から既に問題を抱えていたからであろう。
小さな地獄の隙間に、束の間の享楽が垣間見えるあの独特の作品世界が僕は好きだった。
一方本作は、一見満ち足りているように思える、既婚者の高校教師の視点がメインである。
前作とは違って、穏やかな日常に少しずつ影が落ちていくような印象を強く受けた。
後半になればなるほど、行間から絶えず危険な香りが立ち上ってくるのだ。
穏やかさの中に、確かに破滅への小道が覗くような不穏さが、本作では秀逸であり、これはこれで非常に好ましいと感じた。
平穏な日常ににじり寄る破滅の誘惑
「ひたすら否定し続けてきた自分の気持ちを、ついに耐えきれず認めてしまう」という展開が僕は大好物だ。その点で言えば、本作の苺原樹にはまさに光るものをみた。
序盤の彼女は極めて善良な教師であった。しかし、彼女の規範意識は、些細な出来事を発端にして徐々に瓦解していく。この様が実に緻密である。
夜道で見かけ、生徒指導から始まり、キャッチボールで仲を深め、キャバクラでの泥酔で醜態を晒し、そして連絡先を交換するに至る。要所々々で引き返せそうな余白を残しつつ、それでも教え子の魅力に絆されていく。理性とは裏腹に、どんどん本能の側に倒れ込んでいく様には、一種の恍惚さえ覚えた。
本当に少しずつ、教師という社会的立場が剥がされて、彼女自身の本心が詳らかになっていく。
この過程が実に丁寧で、故に教師×生徒という突飛な関係性にも、なかなかどうしてリアリティが湧いてくる。
そして終盤、ついに彼女は「戸川凛を贔屓する」ことを肯定してしまう。しかも、彼女の耳を塞ぎながらその思いを吐露するという倒錯具合である。人が堪えきれず本心を吐露する瞬間の煌めきを確かに僕は目にした。
「戸川さんが一番、大事」
引用元:入間人間, 『人妻教師が教え子の女子高生にドはまりする話』, 株式会社KADOKAWA, 2024, p.232
教師として恥ずべきこと。特定の生徒への贔屓。好意の極端な偏り。
愛にさえ転げ落ちそうなくらいの傾き。
(挿絵もあって大好きなシーン)
背徳と純粋の狭間
苺原樹と戸川凛は、その間に介在した感情に限っていえば、実はとても純粋な関係性なのではないかと感じた。それは前作の陸中チキや本作でその呪いを受け継いでいる星高空とは違い、実にプリミティブな恋愛感情を宿しているのだ。戸川凛はその冷え切った家庭環境から愛情に飢えていて、苺原樹はそれに寄り添いたい、受け入れたいと切望し、一線を超えてしまう。戸川凛の家庭環境がバックグラウンドにあることで、ある種の切実さのようなものが通っているように思える。これが実に入間先生らしいというか、ただインモラルな関係に終始せず、その上でどうしようもなく惹かれ合う純粋な二人を描くことで、そのちぐはぐさに、唯一無二の妙を描き出している。
とにかくサステナビリティ皆無で、明日のことなんて考えられないくらい真っ直ぐで、互いに社会的立場をかなぐり捨ててしまえるほど純粋な恋愛劇なのだ。
性描写
ある意味一番度肝を抜かれたのがその性的描写である。前作では行為こそ匂わせていたものの、直接的な表現はせず、事後の湿っぽい空気感が表現されている程度であった。しかし本作では、すべて事細かに赤裸々に語られてしまっている。特に描き下ろしパートは絶句した。とにかく全部書かれている。
聖地情報
旅行で湘南に行った際に、少しだけ鎌倉に立ち寄った。
鎌倉駅とパンダ焼き
ほんの一瞬文章中に登場しただけだが、一応購入してみた。
味は普通に美味しかった気がする。
当時はWeb版を少し読んだ程度だったので、あまりちゃんと回れていない。
野菜の連売所とか近くにあったのかな。
おわりに
とにかく、相変わらず入間先生の描く女女世界は格別だった。
久々の百合読書であったが、非常に満足できる内容だった。
一応次巻で完結するらしいので、どういう結びになるかとても楽しみだ。
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